2013年5月17日金曜日

Cycling Africa 〜DAY 3〜




朝6時に自然と目が覚めた。昨晩あれだけ強かった風もすっかり止み、枯れ草が小刻みに気持ちよさげになびいている。昼間あれだけ暑いにも関わらず、夜中はそれなりに冷えるナミビアの大地。砂漠的な気候帯にいるんだな、と再実感させられる。

ミハラはまだ寝ていたので、一足先に次の町へと向かうことにした。ナミビアの朝は最高に気持ちがよい。空気が水晶のように澄んでいて、思わず深呼吸せずにはいられない。何より、繰り返しになるが、暑くない。


遠くに白い塔が建っており、「あそこまで辿り着いたら休憩!」と暫定自分ルールを制定するが、得てしてこういうだだっ広い土地で遠くに見える物というのは予想以上に遠くにあるもので、途中で諦めたのは半ば必然と言える。

8時を過ぎると体に太陽を感じ始め、10時にもなると汗が体を湿らす。道中、ナミビア→南ア間を定期運行するバスが三度僕を追い抜いていった。『intercape』と車体に描かれた品の良いそのバスは7000円(現在は値段変更があり倍の14000円と聞く)もするらしいが、エアコン・リクライニング完備の車内でたった24時間惚けているだけでケープタウンまで辿り着けるというのは、非常に羨ましい、いや、言語道断である。自分が今まで如何に「移動」した距離というものを考えることをしていなかったかが身に染みた。


ウィントフックから約200km離れたその地図上の小さな点は、本当にささやかな村だった。町の入り口には古ぼけた白い看板が立てられていた。

Welcome to Kalkrand(カルクランドへようこそ)

その看板が見えた時の嬉しさといったら、筆舌に尽くし難い。

とりあえず手近な店で1.Lの冷たいコーラを一気に飲み干した。ビールじゃなくて、コーラ。チャリダーのために作られたんじゃないかと疑うほどに、美味い。僕にとっての聖水である。からっからに乾いた喉に一気に染み渡り、思わず涙が出る。

ミハラがくるまで仮眠しようと思い、店の隅の段差に横になった。やけに広い店内にはビリヤード台が一つとアーケードゲーム機が一つ置いてあった。夢か現かといった具合にその村の二大娯楽に昼間から集まる少年少女たちを眺めていると、警察官が急に割りいって来てアーケードゲームをし始めた。起き上がって画面を覗いてみると、随分と古いストリートファイターだった。こんなナミビアの片田舎にも母国の欠片があるとは、不思議なものである。そんなことを思いながらゲーム機から聞こえてくる「波動拳ッ!波動拳ッ!」という懐かしい響きに耳を澄ませた。


ミハラの到着後、村に一件あると言うホテルレストランへと自転車を走らせたところ、この規模の村にこんな立派なものが!と失礼千万ながら驚いた。ちょっとした小物やインテリアに凝った内装はヨーロッパを彷彿させるようなもので、この場所だけがハッキリと「異端」であった。

もちろん、品書きも日本と遜色ない程高かったが、久方ぶりのまともな飯である。そこを出し惜しみするのは野暮というものだ。オムレツとハンバーガー、それにこれでもかという程冷えた炭酸を4、5本ぺろりと平らげた。ナイフとフォークを使って食事をしていると自分達が文明人だったことを思い出すから不思議である。

さらに驚くべきことに、中庭にはなんとプールがあった。経営者に尋ねると「使ってもいいよ」とのこと。ザンビア以降、あれだけプールがあっても面倒臭さに負けて入ることを拒み続けた我々であったが、顔すら暫く洗っていないのだ。積極的にお言葉に甘えることにした。

プールの水は少し冷たいが、午後の日差しはオラオラと田舎の不良並に勢いを増しており、つまり非常に丁度良かった。ベンチに腰掛け体が乾けば再び水に飛び込み、貴族もかくやと言わんばかりにリッチかつインモラルな昼下がりを過ごした。こんな予想外ならいつでもウェルカムだ。

『12:00〜2:00頃の炎天下を走るのは下手をすると命に関わる』という前日の教訓を真摯に受け入れることにした我々は、夕刻風が強くなる前に、禿げるほどに後ろ髪を引かれる思いで、この夢のような村を発つことにした。

村の外れにあるガソリンスタンドで水や食料を買い足した時、店員が「ダンケ(ドイツ語で有り難うの意)」と言っていた。「ああ、この国はドイツ領だったんだなあ」というのを改めて実感する。文字の知識と現実が一気に近づくような、そんな肉感を伴う経験の積み重ね、それが旅なのかもしれない。


店の前で出発の準備をしていると、一見胡散気なトラックの運ちゃんが「後ろにいる男共がお前らの荷物奪い取れないか話してるぞ、気をつけろ」と忠告してくれた。

村から一番近い休憩所では、車を停めお茶をしていた家族がこの先の道の様子についてアドバイスをくれた。サソリやヘビが多いこと、酔っぱらいや強盗もいることを教えてくれた。

日暮れ前に見つけた荒野のど真ん中に孤独に佇む柔らかな雰囲気の牧場の家族に「今晩泊めてくれないか?」と頼むと、快く見ず知らずの薄汚いアジア人を受け入れてくれた。

今日もナミビアは、人の親切が温かかく、夕日が優しく燃えていた。

(動画はこちら

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