ブログではまだ記事にしていないが、twitterやfacebookで僕の動向を負って下さっていた方々はご存知の通り、メキシコ、そしてアメリカ・ニューヨークを経由しての帰国だった。なぜ帰路にこの二カ国を選んだかを説明するには、得意の長い話と退屈な脱線の繰り返しを要するので、またの機会に書かせて頂くことにしよう。
ともかく、2011年3月12日に日本を東から出発し、西に広がる雄大な太平洋を超えて帰ってきたわけである。
成田空港に到着したのが9日の夕方。パスポートケースをひっくり返して出てきたくしゃくしゃの30ユーロと50ドル札を日本円に両替した後、上野駅へと向かった。300日ぶりの日本は、NY滞在のワンクッションがあったせいか、思った以上にすんなり馴染むことができた。上野駅に降り立ち、まず最初に食べたのは松屋の牛丼(本当はすき家が良かったが見つからなかった)だった。その期待以上でも以下でもない「そう、これだよっ」という安定かつ安心のクオリティに、帰国を実感した、というかさせられた。その夜、漫画喫茶で10ヶ月間溜め込んだ未読の漫画を一晩中消化し続けた。東京→新潟間を運行するオリオンバス会社では「新年初夢フェア」なる格安キャンペーン中らしく、2013円でチケットを販売しており、2013年になった実感もないまま僕は10日の夜行バスに飛び乗った。
故郷新潟では1週間、秋田では1週間弱を、友人に会ったり、身の回りの物を整理したり、四月からの新居を探したり、といった風にゆっくりと過ごした。アメリカ留学から帰ってきた時も思ったことだが、「1年」という期間は身の周りの環境を劇的に変えてしまう程に長い期間ではないようだ。友人達からも家族からも「久しぶりな感じがしないね」というたったの一言で僕との時間の溝は埋められてしまい、期待していたようなアツいハグが飛び交う感動的再開は妄想に終わるハメになった。けれど、その非・特別感が逆にすごく温かかく、嬉しかった。
ふとした折々に唐突にアフリカを思い出す。近所のツタヤに自転車を走らせると永遠に続く一本道を、青空を見るとサバンナの突き抜けるような空を、星空を見るとあの砂漠の一夜を、真冬の寒さにアフリカの最高峰を、妹の横顔にサファリの猿を、赤く燃える夕日に湖に浮かぶ小さな島を、昨日のことのように思い出す。アラビアンナイトだったんじゃないか、と疑ってしまう程の思い出の数々、まだ1年も経ってないとは俄に信じ難い。これから徐々に記憶は薄れ、ご都合主義による改竄がなされ、思い出す回数も頻度も減ってしまうのかもしれない。が、それは消えてしまうわけじゃなく、自分の心の、体の芯の一部として深く刻まれてるんだと、直感的に感じる。この300日は自分にとっての大冒険で、原体験だった。
こうして無事五体満足で再び日本の地を踏みしめられるのは、結果論ではあるが、一重に「運が良かった」からだ、と思っている。モロッコではゲイのオッサンに色々されかけ、エジプトではぶん殴られてメガネが壊れ、スーダンでは砂漠で渇死しかけ、エチオピア国境通過3日後に紛争が起こって人が死に、ケニアの40日過ごした宿では最近銃撃事件が起こり、マラウィの山では遭難しかけ、ナミビアで再び渇死しかけたが、全てにおいて事なきを得た。そしてバックパックの中身も何一つ無くしていない。きっと絶妙なタイミングを以てあらゆる災厄をのらりくらりと交わし続けてきたのだろう。これを運と言わずに何と言おうか。僕が無事帰国し旅の思い出をオモシロオカシク語ることができる、これが何よりの土産である。従って土産は南アフリカのトイレで無料配布されているコンドームのみだ。そう友人に言ったら最早呆れられてしまった。
さて、4月からは所属していた秋田大学医学部医学科に復学する。大学を辞めることも視野に入れての出国だったが、どうやらその必要はなかった。多くの旅人がおそらくそうである様に、僕も今「学びたい欲求」とでも呼ぶべきモノが頭の中で渦巻いている。実際、僕が足踏みしている間に不幸にも進級を遂げた友人諸兄は「2年次は地獄である」などと口々にしながら幽鬼のような様相を呈し机に向かっていた。僕も理想や夢や楽しい事ばかり考えていられるほど楽観的な人間ではないので、ある程度覚悟はしていたとはいっても、相当厳しい1年間、いや、5年間が始まりそうな気配がムンムンする。そんなわけで「あれもこれも」的な今までのスタイルから「あれかこれか」的ストイックに、時間にシビアに生きていく必要がありそうだ。とにもかくにも、アイディアは色々あるが、新学期が始まってみないと何も分からないのが現状、である。そんな日々に対して、旅の途中から既に胸中にあった決意がある。それをウマく言葉にしてくれたポストを先日facebook上で発見した。新年の抱負、いや日本での新生活の課題だ。短いがセンスがあるので紹介して、また無駄に長くなってしまった帰国報告とさせて頂こうと思う。
『犬の様に学び、紳士の様に遊べ!』
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