2012年3月9日金曜日

インドシリーズvol.9


7/18

夜中に停電したみたいで、天井のファンが止まっていた。ムシムシした暑さで目を覚ます。

一階の食堂も暑い。DUO(誰かが宿に残して行った英単語帳)を読みながら食事。知らない単語が多い。アメリカ1年いたって、まあそんなもんか。

昨夜購入した夜行列車のチケットを受け取り、日本語ぺらぺらのインド人商売人・ムケ氏のところで聖水を購入。ちなみに聖水ってのはちっさい容器にガンジスの水をいれた土産物。致死量の細菌が詰まってる気がする。果たしてこのポケットサイズ生物兵器は空港のゲートを超えられるのだろうか。





その後、ホテルの屋上で一服。iPodに聞き入る。ガンジスの水面が煌めく。昨日と同じ風景。今日がバラナシ最終日だと思うと、なかなかに感慨深い。

と、いい具合に自分に酔っていた僕は隣に気配を感じた。

「変だな・・・屋上は誰もいないはずなのに・・・」

そう思い横を見ると・・・

~イメージ図~

サルがいた!

地面に置いてた僕のライターをめっちゃ真剣にいじってる!ちょ、火遊び危ないよ!

ここでインドのサル事情について少し述べておく。インドには野生のサルがいっぱいいる。ヒンドゥー教でサルは神様系のポジションらしくて、駆除できないのだとか。賢い奴ら対策のためか、屋上への扉はどこも分厚い鉄格子でロックされていた。

「サルかわいいじゃん!」とか思うかもしれないが、こいつらは本当に危険。狂犬病をもってるかもしれないのだ。狂犬病はマジで恐ろしい病気で、予防接種なしだと発症後ほぼ100%死ぬ(1例だけ回復した例があるらしいが)。予防接種していても、感染後すぐに病院でワクチンを打てば助かる確立は上がるが、発症すれば終わり。しかも接種は期間をあけなければならず、旅の継続ができなくなる。

感染経路はサルやイヌといった動物媒介で、狂犬病をもつそれらの動物に噛まれたり引っ掻かれたりすることで感染する。脳に近い部位を噛まれるほど危険度は高まり、症状には水に対する恐怖感、風に敏感になるなどが挙げられる。

そんな恐ろしい病気持ちかもしれないサルが、いつのまにか隣にいたのだ。初めてサダコ見たとき並のビックリである。

大声出しそうになるのをなんとか堪え、おサルさんを刺激しないよう静かに離れる。敵はそんな僕を気にも留めずライターを齧っている。

なんとか命からがら逃げ出した僕は、2階のラウンジでのんきにスモモを食べていたダイスケに事の顛末を打ち明けた。

そして、ダイスケに話してるうちにだんだんと恐怖が怒りに変わってきた。そのへんの路上で売ってるゴミのようなライターだったが、サルごときに盗られるのは不愉快だった。

10分後、僕らは報復を決意するに至る。これはもはやライター云々の問題ではない。人とサルのインドもとい地球をかけた戦争なのだ。

~イメージ図~

階段を駆け上がりはしごを登ると、屋上の隅に奴がいた。大胆にもこちらに背を向け、ライターをいじっている。

後ろから近づいて一発ぶんなぐってやろうと近づく2人。敵もこちらのタダならぬ雰囲気に気づいたようで、口を広げ威嚇してくる。

「うっわやべえやべえ!」、心の中で叫ぶがここで引くわけには行かない。僕らにはこの宿の屋上の治安を守る使命があるのだ。

しかもさっきと違い、こちらには『スモモ』という武器がある。距離を置いて戦えば恐るに足りない。

袋からスモモを取り出し一匹のサルに投げつける僕とダイスケ。動物愛護団体からクレームがきそうな光景だ。

これにキレたのはサルで、スモモ攻撃を交わしながら僕らに向かって突進し、ダイスケを狙って引っ掻いてきた!

持ち前の運動神経で間一髪交わすも、ダイスケの腕にはうっすらとミミズ腫れが残った。

「これはマズイ」

つい1分前まで大人しくライターいじりに没頭していたサルが怒れるモンスターと化してしまった。

パンドラの箱を開けてしまったことを後悔しつつ急いで退却する2人。2戦2敗という情けない結果を残してしまった。惨敗である。ダイスケの傷も心配だ。ミミズ腫れで狂犬病は感染するのだろうか・・・。

ラウンジで悲しみに暮れていると、そこに現れたのは「バラナシのサルハンター」として名高いハセ氏&キム氏。

サルとの戦いのこと、ダイスケが傷を負ったことを告げると、ハセ氏が高々と拳をつきあげた。

「戦おう」と。

まるでロードオブザリングのフロド並みの勇敢さである。ハリウッドも黙っちゃいないレベルだ。

~イメージ図~

巷で度々メン・イン・ブラックとも比較される彼らを見方につけた僕とダイスケ。「勝てる・・・!」絶望の淵に希望の光が差し込んだ。

~イメージ図~

スモモはもうない。武器をなくした僕らは、壁に立てかけてあった鉄パイプをそれぞれ手に、最後の戦いへの階段を登った。

屋上への扉をあけ、最後の決闘が始まらんとしたその時、僕らの目に映ったのは・・・

~イメージ図~

30匹くらいのサルの群だった・・・!ちょ、援軍よびやがった!

どうやら先刻投げつけたスモモに群がってきたようで、数個のそれを奪いあうサルたち。地獄絵図。

「もう勝てない・・・」諦めかけたそのとき、ハセ氏が鉄パイプを握り締めサルの大群に向かって突進していった。

小石を拾い援護射撃する僕ら4人。サル共に囲まれながら孤軍奮闘するハセ氏。その勇敢さに感服。彼のことは後世まで語り継ごう、そう心に誓った・・・。






とまあ、サルとのバトルは惨敗だった。30匹のサルが威嚇してくる様子って、かなり怖い実際。同じような種のはずなのに何であいつらあんなに強いんだろ。

その後、屋上へ出る鉄格子からサル釣りに興じた(サル釣りについてはインドシリーズvol.5を参照)。けっこう釣れたが5回目でエサをとられた。魚より全然頭イイな。





18:00バラナシ発の電車を予約していたので、16:00ごろにバラナシ最後の晩餐会。冷たいコーラが喉に染みる。

ハセ氏&キム氏だが、出発日を勘違いしており明日バラナシを出ることが判明。もう数週間この地に沈没していた二人だが、「急に何かやり残した感じがしてきた」と焦っていた。

相棒ダイスケともここでお別れ。北へ向かう彼は、デリーまで戻ってから飛行機でマナリーやレイに飛ぶと言っていた。

「ムンバイで出国のときにまた合流しよう」とお互いの無事を祈りあった。








雨季のスコールでぬかるんだ道をリキシャで進み、駅のホームで韓国人の旅人と話していると、概ね定刻通りに列車がきた。すごい。インドじゃないみたい。


クーラーのないじめじめした寝台車は向かい合う二段ベッドのコンパートメントから成っていた。向かいの席が偶然にも日本人旅行者で、4ヶ月の間にサルに2回噛まれたと言っていた。サルの歯って構造的に噛まれると傷が癒えにくいらしい。

車内販売のチキンビリヤーニを注文したころ、電車が動き始めた。

バラナシが遠ざかっていく。ここからは本当の一人旅。次の街カルカッタで何が起こるのか。

そんな期待と不安とバラナシを去る寂しさを胸に、暗闇に溶けていく景色を眺めていた。





次章 パ ラ ゴ ン !



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