2012年11月22日木曜日

蛍探しの旅人



【蛍(ほたる)】 
鞘翅目ホタル科に分類される昆虫の総称。発光することで知られる。




『本を読めるくらい蛍がいる』

ほとんどモザンビーク寄りのマラウィ第4の都市・ゾンバに訪れた理由の一つは、そんな噂を耳にしたからだった。


昨年の初夏だっただろうか。初めての一人暮らしも随分様になってきて、冷凍庫をガリガリ君の梨味で埋め尽くすという贅沢を満喫していた頃のことだ。

大学の前期日程はほぼ終わりつつあり、あとはテストを残すのみ、といった講義が週に数コマあるだけで、怠惰なのを夏の暑さのせいにしながら、極めてウンコ生産マシーン的生活を送っていた。

そんな僕の7畳半の部屋には東向きの窓が一つあり、夕日こそ見えないけれど、夜の訪れを告げる東の夏空を、窓の縁に腰掛け煙草をふかしながら眺めているのが好きだった。

そんなある日のことである。いつも通りのだらけ切った頭で「てか今日何したっけ」なんてどうしようもない自問自答しながら、もう随分暗くなり涼しい風の吹き始めた空を眺めていると、ふと何か光るモノが視界に入った気がした。

窓の外側は用水路になっていたので「なんだ街灯が反射しただけか」と納得していると、再び何かが光った。目を凝らしてよ~く見てみると、どうやら発光物体は一つじゃないようだった。「もしや・・・」慌ててアパートの外に出て用水路に近づくと、なんとそれらは蛍だった。

蛍を見たのは初めてではなかった。新潟の実家の近くに「ほたるの里」なる小川がせせらぐホタルスポットがあり、家族で何度か見に行ったことはあった。が、それ以外の場所、ましては用水路なんかで、蛍を見つけるとは夢にも思わなかった。

その後、アパートの隣人(友人)を叩き起こし、近所の川辺まで蛍を一緒に探しながら歩く、という極めて青春度の高いアクティビティを満喫したのだが、残念ながらホタルたちは点々と光っている程度で、大群を見かけることは終ぞ無かった。


そんな蛍が、である。本が読めるほど、である。『蛍探しの旅人』、そんな二つ名に酔いしれながら、本は何読もうかなウフフなんてロマンチックが止まらない状態のままゾンバに到着した。

マイナーな観光地だと地元の人に尋ねるより旅行者に聞いたほうが早かったりするが、今回は何てったって「本が読めるほど」の蛍である。流石に聞いたこともない、なんてことはないだろう。そう思い、物はついで、と、暫くのうちに伸びてしまったツーブロックを借り上げに怪しげな自称ヘアサロンへと赴いた。

2畳ほどの建物、というか部屋に何故か3人も自称美容師がいるそのヘアサロンは、木製の椅子が一個置いてあるだけ、という無印良品も驚くほどのシンプルなものだった。

椅子に腰かけると、おばちゃんが何処からともなくカミソリを取り出し、僕の髪を削り始める。「バリカンある ノープロブレム」って言ったじゃん、なんて僕の思いも虚しく、それなりの痛みと共に毛が床に落ちていく。僕の小さな悲鳴など物ともしない。

そんな苦しい散髪が終わりかけた頃、英語が堪能なラスタマンが美容室にやってきた。ここぞとばかりに質問してみる。

僕「ゾンバで本が読めるほど蛍が見れるって聞いたんだけど、どこに行けば見れるの?!」
ラスタ「蛍なら雨季が始まる頃にならないと出てこないぜヤーマン!12月まで待ちなヤーマン!」




蛍探しの旅人・完

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