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目が覚めると車窓からの外景はもう明るかった。200km南下しただけなのに、Marientalまでの道のりよりも更に荒野感を増しており、「日陰どころか木すらあまりない」という話は残念ながら強ち嘘でもないようだ。Keetmanshoopは地図上でも割と大きな都市として記されており、中心街は高い建物こそないが、店々が連なり物に溢れていた。
多少不安だった預け荷も無事手元に届き、陽気な駅の職員のオジサン達と会話を楽しんだ後、今晩の宿を探し回った。流石に街中で野宿するのは気が引けるし、何よりそろそろベッドで寝ないと疲れが落ちない。何件か当たってようやく見つけたレイチェルズゲストハウスなる宿はナミビア物価的には安宿で、贅沢にもシングルルームにチェックインした。宿を切り盛りするお母さん(レイチェルさん)は気さくで親切な人で、宿と家が融合したようなこの場所は居心地が良かった。
この日は療養日兼装備充実日と決めていたので、肉を全面に押し出した久々の自炊を楽しみ、各々必要な物資調達に走り回った。僕は自転車修理屋を探したが見つからず、半ば途方に暮れていた。Rehobothでもらった応急処置は今の所問題はないようだったが、ここから先の長い道のりを考えると、やはりちゃんとした修理をしておきたかった。
思案顔で木材や工具を幅広く取り扱うホームセンターを物色していると、ふと目に入った物があった。何と呼べばいいのだろうか、また本来何に使うものなのか見当もつかないが、それは黒いゴム製の穴が開いたパーツだった。もしかして…と思い折れた金具部分がそ筒の中に固定されるように自転車を弄ってみると、これが予想外にフィットするのだ。簡易修理と仕組みは一緒だが、遥かに強度がある。この時の嬉しさと言ったら、筆舌に尽くし難い。ミハラもミハラで小型のガスを見つけたらしく、宿の共用スペースで歓喜乱舞していた。僕らは、ハイテンションだった。
夜、wifiを使えるホテルのロビーへ赴き、フライトのチェックをしようとすると、facebookに一通のメッセージが届いた。それは、ケニアからマラウィまでを共に過ごしたもう1人の相棒、オギノからであった。マラウィから西へと抜けた我々とは逆に、彼は単独東のモザンビークを抜け、南アフリカから一足早くスペインにいた。「頑張ってるおれらへの応援メッセージかな、なかなか見所がある男じゃあないか」などと微笑ましい期待を寄せながらメールを開いた。
『アフリカ帰りはモテるってほんとだった!AirChinaのCA、いただきました☆ チャリ、ファイト!好い事が待ってるよ!(原文引用)』
思わず三度読み返した。これは重大な反逆行為であり、万死に値する内容だ。いいだろうか、我々は自転車で死にそうになりながら灼熱の不毛地帯をサソリとヘビに怯えながら、なんとかなんとか明日へと走り続けているのである。それを、だ。彼はあろうことか、スペインというユートピアでの楽園生活の一旦を自慢してきたのである。最後の一文も素直なエールとは受け取れまい。「オギノ、許すまじ!」、怒り心頭で我々はすっかり気の抜けたコーラを飲み干した。
宿のベッドは寝るのが勿体ないほど最高の寝床環境だった。積み荷を載せ終わった後、なんとなく漫然と煙草をふかしていると、ミハラがワインとチーズを買ってきてくれた。この男、たまに粋なことをするのである。久しぶりのワインで頬をゆっくりと火照らせ、静かに夜が更けていく音に耳を澄ませた。
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