「あきら、やばい、これは来た方がいい!」
そんなおぎのの興奮冷めやらぬといった呼び声で目覚めた。一晩明けてわかったが、初日のジャングル登りはモヤシっ子の僕にとって心身ともにそれなりのダメージがあったようで、楽しみにしていた天体観測も忘れ、気づいたら朝になっていた。あまりに深く眠りすぎていて逆に損した気分すらしてくる程の快眠だった。
まだ寝ぼけた頭でおぎのに続き昨日の展望台に赴くと、地平線から太陽が昇り始めたところだった。昨日の夕景同様ため息が出るほど美しい風景だったわけだが、今朝は神様がもう一つ粋なスパイスを加えてくれたようで、キリマンジャロが朝日を受けシルエットを見せていた。
キリマンジャロが見える山、そう聞いたのも今回の登山を決めた要因のひとつにあった。雲海に浮かび上がるかの名山は、ほんの15分ほどで雲に霞んで見えなくなってしまったが、頭が妙に冴え渡るような心地よさを覚えたのは山の寒さのせいだけではないだろう。昨日頂上から下山してきた方の話によると、ここ数日こんなに天気が良い日は無かったという。これも一重に質素倹約をモットーとする僕の日頃の行いの良さとしか思えない。
朝食後すぐにキャンプを出発し、次のキャンプ3500mへと歩き始めた。ここからは一歩ごとが人生最高峰を刻むのだと思うと高揚してくる、と同時に高山病に対する不安も感じ始めた。再びジャングルの中を進むが、昨日と打って変わって今日は斜面反対側に下界を見下ろしながらの登山。ときどき立ち止まって、深呼吸しながら一面の雲海を眺める。上にも雲、下にも雲。僕らは雲の間にいた。例えるなら空島に辿り着いたときの麦わら海賊団の気分。爽快である。
3200mあたりからだろうか、乱立する大小様々な木々から、整然とした低いブロッコリーのような木々へ、植生が突然と変わった。「これが高山植物か」などと知った風な口を叩きながら歩くことトータル3時間半、予定よりやや早くキャンプ地へ到着。3500m。富士山も登ったことがないのに富士山と同程度の標高に立っているのが何だか不思議で、日本人として少し申し訳ない。
この日、僕とおぎのには2つの選択肢が与えられていた。
①今から頂上登って夜キャンプに戻ってくるコース
②今から寝て夜頂上にアタックし、朝戻ってきて休憩後一気に下山コース
通常推奨される(というか一般的なの)は②で、深夜にアタックを開始からのご来光を拝むのはどの山でも定番(のよう)だ。だが、相変わらずNORTHFACEの黄色いフリースを着た我々のガイドは「今から行っちゃうのもアリだぜ?」なんて白い歯を見せた。ご来光もいいが、翌日一気にここまでの道のりを下るのはキツそうだし、何より下手に休んで筋肉痛がくるよりも、まだ歩けるうちに歩きたい、そんな結論に達した僕らは昼食後、残り1000mを登ることを決めたのだった。
キャンプ場から見える200m位の崖、メルー山はその向こうに頂を抱えるらしいが、如何せん雲に覆われていて何も見えない。ついに最終決戦、グランドラインに突入するかのような心持ち。疲労も恐れも不安も、精神力で全てに打ち勝ち克己する戦い。「キリマンジャロの前哨戦に過ぎないとはいえ、一兎を狩るにも全力を尽くすという獅子のように、メルーを征服しよう」、と、そんな風に驕っていられたのもせいぜい4000mまでだった。お話にならないとはこのことである。
(つづく)
5枚目の写真やばい!
返信削除何か知らないけどはまったよ。。。
アップに感謝。