2012年10月29日月曜日

モスキート・エフェクトと列車旅



当初の予定ではヌングイから小船でインド洋を越え本土へ戻るつもりだったが、予想外に船賃が高かったことと、それ以上に船を探し歩く手間すら面倒だったのとで、結局ストーンタウンに再び戻ってからフェリーでダルエスサラームに帰ってきた。

ダルエスでの唯一にして最大のミッションは「タンザン鉄道のチケット入手」であった。タンザン鉄道とはタンザニア-ザンビア間を繋ぐ中国製の列車のことで、両国の頭文字をとった比較的安易なネーミングのこの列車は、「アフリカの列車旅というもの珍しさ」と「バスより楽」という2つの理由からこの地域の旅行者には有名なのだ。アフリカの列車は確かに珍しい。スーダンの列車は貨物専用であったし、エリトリアの列車は「アフリカ一美しい車窓」として有名らしいが入国が面倒(僕は行かなかった)、そしてケニアでも何だかんだで乗りそびれてしまった。それもあって、「アフリカの列車旅」という響きに大いに魅せられた僕らは、早速チケットオフィスに向かったのだった。

がしかし、一日目は休日だったようで駅自体が閉まっていた。「タンザン鉄道チケットは1週間前でも売切れていることがある」、何処かで目にしたそんな情報が脳裏に過ぎる。と同時にアスワンで2週間フェリーを待った日々が走馬灯のように脳内再生されていた。「1週間前でも取得不可なチケットを4枚、前日に取れるのか…?」、列車自体が週2本あるとは言え、限られた時間と財源で旅する僕らにとっては死活問題だった。

その夜、宿泊していた安宿YWCAのダブルルームに蚊が異常発生した。ダルエスサラームはモシやアルーシャと違って低地にあるため、完全にマラリア危険地帯。備え付けの蚊帳を張ることを怠るほど無謀なことはしなかったはずが、真夜中何度も痒さに目を覚まされた。明かりで患部を照らせばアホみたいな数のピンク色の腫れ。どうやってか「ヤツら」が侵入してきたようだった。結局その晩は3時間程度しか寝られなかった。全く以ってとんでもない生き物である。安眠妨害&病気媒介する分ゴキブリより性質が悪い。

翌日、ローカルバスに乗り再び駅へと赴いた。「チケット4枚ありますか?」、緊張しながらそう尋ねると、「1等と2等どっちがいい?」と答えが返ってきた。まさかの前日取得成功。半ば諦めかけていただけに、予想外の嬉しさたるや、といった具合であった。

これも一重に昨晩の蚊の猛襲のおかげかもしれない。+と-が予定調和する的な、塞翁が馬的な、そんなハッピーなリターン。蚊に刺されることで取得不可能と思われたチケットが購入できる、といった風に、一見関係なく思える異なる事象同士は巡り巡って相互に影響を及ぼし合っているのかもしれない。この現象を『モスキート・エフェクト』と名付けることにしようと思う。こんなこと考え付くのは人類史上僕が初だろう。我ながら実に調子が良い。







ダルエスサラーム市内フェリー乗り場付近から車で約30分、タンザン鉄道駅(タンザーラ)はそんな街外れに位置している。計週4本の発着のための駅とは思えないほど大きく、この日もタンザニア人、ザンビア人、マラウィ人、欧米人、そして僕らアジア人と、様々な人種で入り乱れていた。駅構内には中国語で書かれた記念碑的なモノもあり、ボロいわけではないがそれなりの歴史を感じさせる雰囲気があった。



チケットには1・2・3等の3種があるようで、1等は寝台4つのコンパートメント、2等は6つ、3等は座椅子、といった風になっている。そこまで値段差も無かったのに加え、ちょうど僕らが4人だったというのもあって、1等チケットを購入していた。乗車前から「なんたって1等だからな、VIPだぜVIP」などと口々にし、エアコンが完備されてるようなリッチな部屋を想像していた…が、実際の列車は「これちゃんと動くの?」と確認したくなるような代物で、理想との隔たりは大きく深かった。ちなみに窓すら閉まらなかった。

 



 


タンザニア西部の町・ムベヤ(マラウィへの基点)に到着するまでの24時間の内、睡眠時間以外はほぼぼんやり外を眺めていた。思っていたより早く走るタンザン列車は時折激しい縦揺れを繰り返したが、実に素敵な車窓の風景を見せてくれた。のどかな田舎村、駅に集まる物売りたち、ハローと叫びながら手を振る子供たち、どこまでも続くかのような大地、線香花火のような夕日…窓から上半身を乗り出して見上げる星空と、頬に当たる心地良い風は、爽快そのものだった。「ああ、そうか、おれは今アフリカにいるんだな」、広い空を見上げながらそんな当たり前ことを今更ながらに思った。

3 件のコメント:

  1. おひさし!
    お元気そうでなにより。

    一等室がこれとは・・・。
    怖いけど何気に3等室が見てみたい(笑)

    *こっちは着々と冬に向かっているよ。
    紅葉もまだなのにね。
    こっちにはいつ頃戻るんだい?

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  2. 名乗るほどの者ではありませんっ2012年11月13日 22:25

    はじめまして。

    秋田大学(保健学科)を目指している者ですっ。

    ツイッターも見ました^^

    いくら秋田大学は国際化が進んでいるといっても、医学部での留学は難しいようですね・・・

    しかし明さんの旅の様子を見ると、難しくても留学したいと思います!

    残りの旅も楽しんでください。

    突然すみませんでした(笑)

    返信削除
    返信
    1. はじめまして、コメントどうもです。

      お、したらば今受験生?来年には復学するんで本道キャンパスでふらっと会うかもですね~

      医学部での留学、なんとかなりますよ。同級生で僕以外にも休学してるヤツいますし。要はやるかやらんか!前例がない=不可能、じゃあないですもん。

      ありがとうございます、これからも良かったらたまに覗いてみてくださいね~

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