2012年10月2日火曜日

メルー山に登ってみた。①




「もう先行ってきていいよおれ待ってるから」、この3時間で何度そう言い捨てようと思ったか数え切れない。それほどまでに、例えるなら七武海と戦った後のルフィ並みに、あるいは山王戦を終えた後の湘北メンバー並みに、僕は衰弱しきっていた。霜焼けて赤くなった己が両手を見つめて、何故こんなことをしているんだろう、と自問自答を繰り返す。本日開催された脳内自分会議は第16回を迎えていた。
「もうすぐのはずだろ・・・」冷たく強い風に目を細めながら顔を上げるが、視界に写るのは霧に飲まれた岩のみ。心が折れそうになる、というかもういっそ折っちてゃおうかな、と思い始めるも、コーンポタージュ缶に引っかかったコーンくらいちっぽけな僅かばかりのプライドがその邪魔をする。
「あと一山超えてまだだったら諦めよう」、脳内自分会議でそういった決議がなされ、そして僕はまた虚ろな目をしてゾンビよろしく歩き出した・・・。




時は遡り4日前、ナイロビからの夜行バスで早朝アルーシャへと辿り着いた日のこと。チェックインを済ませ部屋に荷物を置いた後、僕は屋上にあるレストランで珈琲を飲んでいた。レストランは屋上に屋根を張ったオープンなタイプのそれで、店内端のソファーに座るとそれなりの見晴らしのよさが得られた。煙草に火をつけ、街が動き出すのを眺める。長時間移動後の一服は何にも変え難い。煙草はシチュエーションだ、と友人が言っていたのを思い出した。この日は天気が頗る良く、何かいいことありそうだな的な予感を孕ませるような青が眩しかった。ふと彼方に目をやると、大きな山の頂上が雲から顔を出したところだった。最大限の渋カッコイイ顔で珈琲に口をつけ、僕は呟いた。「きてやったぜ、キリマンジャロ」と。
そんな僕のハードボイルドさがそれこそ「ピーク」を迎えた10分後、フロントの愛想が些か悪いお姉ちゃんから「あれはメルー山よ」と教えられたのであった。





「メルー山登ろうぜ!」、僕とおぎのがその結論に至るまでに時間はかからなかった。ンゴロンゴロから帰宿し、キリマンジャロ作戦開始まで4日間が余っていた。そこまで金もかからない、3日で登って降りてこれる、標高も4565mとなんだかイケそうな気がする、ていうかメルー山登ったってロックじゃね?よしここが金の使いどころだ!、そんな安易な流れだったように思う。完全に山をなめきったフィーリング登山である。「キリマンジャロに比べればメルー山なんて鼻くそに毛が生えたようなもんっしょ」と、それこそ鼻くそ以下の実家近くの山しか登ったことがない僕は得意気になっていた。我ながら実に大したものである。

「地球の歩き方」にはメルー山がアルーシャ国立公園内にあること、そして登山ができることが、ほんの数行だけ綴られていた。自力登山も可能、という話を聞いていたが、アクセスが非常に悪く(というか自力で行ってもツアーと同じくらい金かかると思う)、結局ツアー会社に甘んじることにした。ンゴロンゴロの教訓で「胡散臭いツアー会社を選ぶと安くても後悔する」ということを学んだ僕らは、すっかり顔馴染みとなったツアー会社「サンバード」を訪ねた。1人$345道具レンタルつき、少々お財布状況への打撃が大きいが、「登らない」選択肢はもう僕らには無かった。そして僕の脳内では高山病もなく登頂した自分が頂上で「案外余裕だったわ」とか言いながら胡散臭く笑ってる映像がblue ray並の高画質で流れていた。


(つづく)

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