2012年10月27日土曜日

ザンジバル~リメンバー・ボワンホテル~番外編R-18



全てのブログを書いている旅人に共通することだ(と思う)が、「ブログで公開できること」と「公開できないこと」というのが勿論ある。一般公開用に書いている僕もその例外ではなく、内輪の酒の席で話したらオモシロい話なんかでも「さすがに書けないなー」と、選定基準に引っかかり泣く泣くボツになったネタがいくつかあるわけで、まあそのへんは帰国後に適当に直接聞いてもらえれば良いのだが、今回はその微妙ラインのストーリーを綴ってみることにする。普段真面目なことばっかりブログに書いてるせいで「カタい人」みたいに見られがちなようなので、イメージ中和しよう的な試みである。多分。






怪しいニオイのする場所というのは、どうしてこんなにも魅力的なのだろうか。

ストーンタウン初日の夜、屋台巡りでイイ感じに腹も満ちた頃のことである。僕ら4人は橙色が鈍く光るイスラムの路地裏を勇み足で闊歩していた。

『風俗探そうぜ』

健全な男子大生4人、しかも不思議なことにこの2年間彼女が出来なかったイケメン4人が集まったのだ。当然と言えば当然の流れであり、そこに理由はなかった。より正確には、それを無理矢理理由付けしようとするほど僕ら4人は野暮ではなかった。

不思議なもので、風俗というのはある程度何処の国に行っても存在する。それなりに厳格そうなイスラム国家でさえも、探しまくれば一件は見つかるのだ。それほどまでにエロというのは世界共通だというのを、旅に出ると度々意識させられる。と同時に、性文化というものがその国の文化に如何に深く関わっているか、という発見も珍しいものではない。

先に断っておくが、僕は今回の旅中にそれらのサービスを利用したことはない。エイズが蔓延するアフリカ社会である。物見遊山で足を運ぶことはあっても、超えてはならない一線はかなり太めにして守っているし、というかそういう自分ルールだ。今回の風俗探しもいわば宝探しのようなそれであって、やすやすとまだ先の長い人生を棒に振るほどイカレてはない。そんな暗黙の了解を胸に、僕らは夜の闇に溶け込んで行ったのだった。

「こっちから怪しいニオイがする」、こと風俗探しに関しては麻薬捜査権も舌を巻くほどの嗅覚を持つ、歩くダウンジングマシーン・おぎのに一行は続いた。複雑に入り組んだイスラム路地は迷宮そのもので、僕はそんなおぎのの背中にインディージョーンズのそれを重ねていた。

『ジキジキ』、何故か世界の多くの地域に共通してこの効果音が行為中のそれとして用いられているのだが、ここザンジバルでもそれは同様であるようだ。暗闇の中海沿いの路傍に腰掛けた胡散臭いオッサン集団に小声で尋ねたところ、その中でも飛び切り胡散臭いオッサンが「ボワンホテルに行け」と呟いた。

「ボワンホテル」、何だかよく分からないが何がしかを含蓄していそうな実にアヤシい響きをしたそのホテルは、やや町外れに比較的堂々と佇んでいた。品の無いネオンの点灯が怪しさに拍車をかけている。「ここだ、間違いない」、メンバーの気持ちがキリマンジャロ登頂時並の団結をみせた瞬間だった。

近づけば近づくほど胡散臭いニオイのするボワンホテルには、ROCK CAFEなどと名乗りながらレゲエを大音量で流す、店内禁煙のバーが隣接していた。イスラムな街だけあって宿の周りではなかなか酒が手に入らなかったこともあり、とりあえず店内で一杯引っかけることにした僕らがバーへと足を向けると、妖怪みたいなババア恰幅の良い黒人のオバチャンがこちらへ歩いてきたところだった。

先頭を歩いていた僕はそれなりの愛想の良さで挨拶を交わし通り過ぎたが、後ろを振り向くと他のメンバーに何やらオバチャンが話しかけていた。聞くと、100円でマッサージを持ちかけられたらしい。これは誘い文句の典型的パターン1である。「やっぱりここだった!」、発見の喜びによるテンション上昇がオバチャンの体臭のキツさによるテンション降下を上回った4人であった。

店のカウンターに客らしき男が3人、バーカウンターに従業員の女が1人、と、広い店内の割りに中は過疎っている様子。「four beers please」、そう注文していると、これまた胡散臭い男が話しかけてきた。「若い女の子もいるぜ~ぐひひ」、酒臭い息をボロボロに抜けた前歯の隙間から吐きながら男は言った。

「ボワンホテルに」、そう口々にしながらビール瓶を掲げる。冷たいビールが歩き回って程よく疲れた体に染み渡る。男ならではの下ネタでバーの隅のソファー席は盛り上がっていた。

そして終にボワンホテルの門を叩く時がきた。二階建てで円形の駐車場のような建物がホテル脇にあり、その屋根のない二階から大音量のクラブミュージック、否、夜が始まる音が響いていた。入り口で入場料50円を支払い、デパートの立体駐車場のように建物に沿って上がっていく道を進む。エロティックなアフリカ世界への坂道を登りながら、キリマンジャロ登山時のような高揚感を覚えた。

「キリマンジャロだったらここが頂上だな」、未知の世界の扉が目前に迫ったとき、誰かがそう呟いた。もしかすると僕が言ったのかもしれないし、皆が言ったのかもしれない。その位僕らは運命と興奮を共同していた。

そうして僕らは坂を登り切った。壁の向こう側の世界が視界に飛び込んできた。

「・・・っ!アレ?」

そこにはバーとダンスフロアらしき空間とビリヤード台が置かれた空間が閑散と広がっていた。水のないプールもあった。もちろん誰も泳いでなかった。

「アレ?」

そこには誰もいなかった。いや、人はいたのだが、あくまで純粋に飲みにきてる風な数人の地元民達だった。さきほどのオバチャンや男のような見るからにアヤシイ者はいない。というか誰も僕らに興味を払っていない。

「おかしいぞ、これはおかしいぞ」

そう呟きながらテーブルに腰掛け煙草をふかしていると、カップルがやってきて普通にデート風なノリで酒を注文していた。ダンスフロアにはDJ1人しかいなかった。

「まずいぞ、これはまずいぞ」

そう呟きながらテーブルで二本目の煙草に火をつけると、コイツとは握手もしたくねえな、といった風のチャンネーがジュースをねだって来た。オマエに飲ませるジュースはない、メンバーの誰もがそう思った。

『期待と感動は反比例する』、この旅における有名公式の一例のような夜だった。帰路につくメンバーの背中は二まわり程小さく見えていたことだろう。

『リメンバー・ボワンホテル』、この日の敗北感を僕らは忘れない。

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